第1章 眠り姫
「すごい可愛い…!ん?この簪…見かけないな…。私のじゃない……」
「俺が用意した物だ。受け取って欲しい」
「綺麗だね。……でも私、審神者就任記念日でもないのに、なぜ…」
誕生日は伏せているから、初期刀の山姥切国広でも知らないはずなのに。
「以前、遠征先で見付けた物だが、不要なら遠慮なく処分してくれて構わない」
「そんな事しないよ、すごく嬉しい。ありがとう、大事にする」
「……ああ」
主の反応が良くて安心した。
自分が主を飾る方法を覚えれば、他の刀が主を綺麗にすることもなくなるのでは…と気付いてしまったから。
「その簪の花は桔梗だ」
「桔梗…?!」
「なんだ、驚くことでもないだろう。主は花が嫌いだったか?」
「嫌いではないけど、日光は桔梗の花言葉知ってるの?」
「ああ、知っている」
紫の桔梗の花言葉は気品、誠実。
気品で誠実。
まるで主のことを表しているような気もして。
鏡を畳んで引き出しにしまうと、静かに立ち上がった。
「部屋の外で待っている。着替えが終わったら知らせてくれ」
「はーい」
日光は部屋を出て、主の着替えが終わるのを待った。
正直、簪を渡す機会が今で良かった気がする。
あの簪を買った当時は主を慕ってはいたが、自分の気持ちも確信にまで至っていなかった。
今なら自分の気持ちもはっきりしているし、これで良かったんだ、と。