第1章 眠り姫
約束の日。
身支度をする為に化粧台の前で髪を梳いていると、既に身支度を終えた日光が入ってきた。
「主の髪結いをさせてもらっても良いだろうか」
「…構わないけど」
日光は主の後ろに膝を付いて座わり、櫛を拝借する。
一方の主はと言うと、日光に髪結いをされるなんてと緊張しているようだった。
そもそも好きな人に髪結いされたことなんて、一度もなかったから。
日光は櫛で主の髪を梳いている。
艶やかでさらさらな栗色の髪は、触っていて心地がいい。
「普段は誰が主の髪結いをしているんだ?」
「んー?普段は自分で束ねているけど、たまに髪結いをさせてくれって言うのは光忠や小竜景光みたいな長船派、かな」
「………そうか」
やはり主のこの髪に触れる刀剣男士が、山姥切国広の他にもいたのか。
梳いている髪を持ち上げると日光は、ちゅ、と口付けをした。
「に、日光、人の髪になにしてるの…ッ?」
「…すまない。つい。綺麗な髪だと思ってな」
「………もう…っ」
顔を赤らめている主を他所に、日光はフッと笑うと髪結いの続きをする。
横髪を残して後ろ髪を耳辺りから取り、結われた毛束を3つに分けて三つ編みにすると、結び目に向かって巻き付けていく。
「お団子?」
「ああ。この方が映えると思ってな」
「なにが?」
「終わるまで、待っていろ」