第1章 眠り姫
「すまなかったな、主。突然内番を変えて欲しいなどと無理を言って」
「んーん。長義が頼み事なんて珍しいから…」
「ああ、君の愛刀に少々用事があってね」
主は目を丸くした。
なぜ長義は自分が愛刀を持ったことを知っているのか、と。
「黙っているつもりだったかな?だが安心してくれ。
今のところそれを知っているのは俺だけだ」
「…………」
長義は、自分が日光に告白しろと鼓舞したことを黙っている。
いずれは日光が自ら主に話すだろうと思っているから。
「日光なら君のことを大切にしてくれるはずだ」
「……うん。ありがとう、長義」
「…まぁ、主と日光の雰囲気がいい感じだと言うことは、察しのいい奴らなら気付いていると思うが」
恋仲になったことを周りに知られたくないなら、臣下と主人の関係を徹底しろと強く言った。
もちろん、日光にもそれは言うつもりではある。
「例えば?」
「…そうだな、君のことを見守っている偽物くんや燭台切光忠、薬研辺りはすぐに気付くと思う。
あの3人も俺に劣らず周りを見ているからね」
休憩時間を終え、長義はまた道場へと戻った。
日光が道場にいるのなら、少しだけでも刀を握っている姿を見たくなった。
「長義、また日光と手合わせするつもりなのかな…」
書類の束を整えながら、窓の外を眺めた。