第1章 眠り姫
「…………、…っ」
「…なかなかやる、な…日光…」
互いに肩で息をしながら、前髪を掻き上げて汗を拭った。
「良」
「ん?」
「…ああ、すまない。…監査官だった頃の癖、でね」
長義は刀を交えながら、日光の観察をしていたようだった。
刀の振り方、癖、取りやすい行動…。
流石、人間観察が得意と言うだけある。
何度か刀を交えたら、そのうち長義から君はここが駄目だとか、欠点はここだと指摘されそうな気もしなくはない。
「あとは君次第…だな」
長義の強い眼差しは、まるでもっと強くなれと言っているようで。
無論そのつもりだし、主の傍にいるのは自分だ。
「本来なら三日月が手合わせ相手になるはずだった所を、すまなかったな」
「…気にすることではない。誰が相手でも、戦いを挑まれたなら受けて立つまでのこと」
長義は刀を鞘に収めた。
「そうでなくては」
「ふん」
互いに礼をし、手合わせを終えた。
今思えばこの山姥切長義に鼓舞されなければ、日光が主の愛刀になることもなかった。
きっと告白しないまま、降り積もる主への想いを抱えているだけだ、と。
日光も刀を鞘に収め、長義の方を見た。
「…………」
「…何かな」
「いや、別に」
長義はなぜ、鼓舞をしたのだろう。
不思議でならなかった。
「……ああ、日光。女性は恋をすると綺麗になるって聞いたことあるか?
我らが主は元々可愛らしいが、その主が他の男に奪われないよう君が気を付けることだ」
主の愛刀なら君が守ってみせろ、と。
長義は長くは語らずにニヤリと笑いながら道場を出た。
長義も燭台切光忠みたく、女性を立てるのが上手い。
流石は長船派の血筋を持った刀だと思った。