第1章 眠り姫
「………ふぅ…。温まった……」
濡れた髪を拭きながら浴室から出ると、居間で他の刀達と話していた日光が待っていてくれていた。
「山姥切長義なら、部屋に戻ったぞ」
「うん。ありがとう。…もしかして日光は私が出て来るのを待っていてくれたの?」
「…ああ。言ったはずだ、主を1人にさせないためだと」
主を1人にさせないためだ、と風呂から出て来るのを待っていてくれた。
日光は主の向かいに立ち、濡れた髪を丁寧に拭いてくれた。
「近侍でもないのに、余計な世話だったか」
「ううん。日光も遠征で疲れているのに、待っていてくれてありがとう」
「俺の心配をしてくれるのはありがたいが、主も湯冷めしないよう気を付けろ」
「……大丈夫だし」
また虚勢を張る、と思っていたら主は日光の袖をキュッとつまんだ。
「………」
「ん?どうした。言わなければ伝わらないぞ」
言わなければ伝わらない。
なんて人のこと言えた口ではない。
自分も、言わなければ伝わらない想いををずっと胸にしまっている。
いっその事主に想いを打ち明けて振られてしまえば、顕現当初みたくただの臣下と主人に戻れるのではないかとどこかで思ってもいて。
「………もう少し、傍にいて欲しいな…」
「勿論。そのつもりで待っていたのだからな。
だから、その手を離してくれ」
これが恋人同士なら、手を繋いでやったり抱き締めたりも出来るだろうに。
と、そんな衝動をグッと飲み込む。