第1章 眠り姫
「君は真面目すぎる。
臣下と主人という関係に囚われていたら、いつまで経っても想いは伝えられないぞ」
「…………」
その通りだった。
自分は臣下と主人との関係に囚われていて、ただ主の傍らにいられるならそれで構わないと思っていた。
「…この本丸の紅一点である主を、案外君の近くにいる刀が狙っているかもしれないよ」
確かに、人目を盗んで主に告白をする刀も中にはいるかもしれない。
長義はにやりと笑っていて、まさかこの山姥切長義も主のことを…?
と疑いたくなってくるが、人目を盗んで、ということなら自分も人のことは言えなかった。
「あぁ。俺は人の恋路に邪魔をするほど悪趣味ではないから、安心して欲しい」
「…………」
「…だが、あんなに可愛らしい主を悲しませるようなら偽物くんも黙っていないだろうし、俺も容赦しないよ」
長義の目は本気だからなと言っているかのように強かった。
が。
…なんてな、と表情を緩めて肩の力を抜く。
長義は日光に頑張りなよと激励を送り、振られても話なら幾らでも聞いてやると言った。
「……さて、俺は休ませてもらおうかな。あとは自分で頑張ることだ」
長義は立ち上がると、日光の背中をトンと軽く叩いた。
「……ああ、戦果は聞かせてくれよ。おやすみ」
クス、と笑って暗い廊下を歩いくその背中を見送った。
主に対する好意は隠していたつもりではあったが、まさか山姥切長義に気付かれていたと思うと自分に反吐が出る。
山姥切国広が主のことを大切にしていることは以前から知っていたが、今は山姥切長義も同様に主を大切に思っているようだった。