第1章 眠り姫
「…言わなければ、何も伝わらないぞ」
山姥切長義にそう言われた。
最初は何の事だと思ったが、思っていることを的中させてくる。
「日光は、主のことが好きなのかな?」
「………なぜそう思う」
「分かるよ。主は優しいし、頑張り屋だから見守っていないとすぐに無理をする」
「何が言いたい」
「そのくせ、涙脆くて自己犠牲の精神も強い」
日光の普段の顔や態度には出なくても、主を前にした時に出る行動や言葉から垣間見えていると言われた。
「日光は知らないと思うが、俺は元々政府所属の監査官で人間観察は得意でね」
日光のことも少し観察させてもらっていたと打ち明けられて、だから山姥切長義に見破られたのかと納得してしまった。
「主が好きなら、好きだと言った方がいいよ。
主を好いている刀は、君だけじゃないからね」
長義はそれが誰かは言わなかったが、胸の辺りでドクン、と脈を打つ音が聞こえた気がした。
自分以外にも主を好いている刀がいると聞いたら、妙な緊張が走った。
よく出来た人間性を持った主を、他の男…刀剣男士達が目を付けないはずがない、と。
「山姥切国広、か」
山姥切国広本人も、自分がこの本丸に最初に配属された刀だと言っていた。
長い年月をかけて築き上げられた信頼関係はとても強いものだと分かるし、
山姥切国広が主のことを異性として意識している可能性もあるかもしれない。
だとしたら、山姥切国広は強力な恋敵になるなと勘ぐる。
「偽物くんは少し違う、かな。
あの2人は線引きがしっかりしているから互いに信頼し合える仲、とでも言うのかな。
偽物くんと主は臣下と主人の域を超えた、言うなれば互いに信頼し合える異性の友達だ」
周りをよく観察してみろと言われた。
そうすれば、日光以外にも主を好いている刀が誰か分かるかもしれない、と。