第1章 眠り姫
「……………」
「どうかしたかな、そんなにまじまじと見て。
ほら、せっかくの茶が冷めるぞ。温かいうちに飲むといい」
「ああ、うん。ありがとう」
小休憩を挟み、湯呑みを手に取るとお茶を一口啜る。
これは鶯丸が淹れたなと分かるくらい、渋みがなくまろやかで優しい味がした。
*
「………ふぅ。ご馳走様」
「君は、食べ方が上品だな」
「そ、そうかな?そんなこと初めて言われたけど…」
そんな所を見られていたなんて、すごく恥ずかしくて頬が熱くなってしまった。
「こう見えて、人間観察は得意でね」
「そう…。あ、これは私が持って行くから。光忠達にお礼を言わなきゃ」
机に置かれたお盆を持って執務室を出る主の後ろ姿を見送る。
「…行動の一つ一つに人間性が現れる。
あいつは…主の人間性に惹かれたんだろうな…」
興味本位で日光の事も観察していたが、
真面目な性格をしている一方で、彼なりに主のことを大切な存在として見ていることも分かった。
「…気付いてくれるといいが」
「何を気付いてくれるといいんだ?」
主と入れ違いに山姥切国広が入ってきて、出陣の報告書を近侍の長義に手渡す。
「確認しよう」
書類に目を通し、終了済みの判を押した。
本来ならば確認作業は主の仕事であるが、執務室に主不在の場合は近侍が代理をしている。
「…それで?何を気付いてくれるといいんだ?」
「お前には関係ないことだ。
負傷をしている者はいないか。負傷者がいたら手入れ部屋へ連れて行ってくれ。
確認作業は終了だ、戻って構わない」
「………ああ」
日光の行動が、主への好意からくる時も垣間見える時がある。
山姥切国広が出て行き、部屋の扉が閉まるのを確認すると言葉を漏らした。
主には、気付いて欲しい、と。
「さて、休息したし仕事の続き頑張らなきゃ」
食器を片付けに行っていた主が執務室に戻ってきて、再び机の前に戻ってきた。
「ああ。頑張ろうか」
主がまた、詰めすぎないか見守らなくては。