第1章 眠り姫
あれ以来、月の満ち欠けに関して知識を得ようと、空を眺めては月の形を確認したりもしている。
時折、山姥切国広からは、月は昼でも見えるんだぞ、今日は上弦の月だ、あれは十日夜の月だと教えられ。
運が良ければ本当に昼間の月を見付けたり、仕事を終えた夜には1人で空を眺めてたりもするようになった。
「…………」
「日光の兄貴が物思いにふけている、にゃ…」
「聞こえているぞ、どら猫」
「ヒィッ」
物思いにふけていると言えば、そうかもしれない。
気付いたら主のことを考える自分がいる。
「日光の兄貴、普段は空なんて眺めないのにな」
「月を見ているだけだ」
「月光浴か、小鳥もよくやっているよ」
湯上りで髪を濡らした山鳥毛が部屋に戻ってきた。
「月光浴、ですか」
「ああ。女性には嬉しい効果もあるようでな。
小鳥の場合は、それだけが目的ではないのだろうが」
山鳥毛はおそらく察している。
主がなぜ、月光浴をするのか。
「日光浴じゃなくて、月光浴なんだな…」
「ふん、くだらん。その日光浴で丸くなって寝ているのは、お前の方だろう」
「………う…っ」
押し黙る南泉を無視して、また空を眺めた。
どうせなら、静かな場所で月見をしたいと思った。
「我が翼も、たまにはこうして静かに空を眺めてみるのもいいだろう。息抜きも必要だ」
「お頭」
「私は何度か見たことがあるが、小鳥は縁側で1人、月見をしていることが多い」
「1人で、ですか」
気になるなら様子を見てこいと山鳥毛に言われ、縁側に降りてみれば主がいて。
山鳥毛の言っていた通り、空を眺めている。