第1章 眠り姫
「主の霊力は月と関係あるらしい。だからよく月見を兼ねて月の満ち欠けを気にしてるんだ」
「…ほう?」
あの手合わせ以降、山姥切国広と日光は互いに打ち解けて、2人が肩を並べる姿や会話をしていることが増えていた。
仕事の休憩を兼ねてお茶を持ってきた山姥切国広が、日光に手渡す。
「満月の日が一番霊力を発揮し、消耗する霊力も体力も大きい。
日光に霊力を使った時に眠っていた期間が長かったのは、その日の夜が満月に近かったからだと思う。
燭台切光忠の時は下弦の月、俺の時は恐らく十日夜月だったな」
「…お前はよく知っているんだな」
月の満ち欠けは、日光も知っておいた方がいいと助言を受けた。
主の霊力は月の満ち欠けも左右する。
日光が彼女のことを理解していきたいのなら尚更だ、と。
「日光に霊力を使った日が満月だったら、主はもっと長いこと眠っていた可能性がある。
まぁ、月の満ち欠けなど関係なく無理をしてしまうのがうちの主なんだがな」
「…そうだな」
皆が命を掛けるのなら、自分も命を掛けると言っていたことを思い出して。
無理をして仕事をしている主のことを想像したら、苦笑いしか出てこなかった。
優しくて、涙もろくて、頑張り屋だからすぐに無理をする。
それがこの本丸の主。
そんな彼女だから、目が離せない。
「他にそれを知っているのは?」
「俺が把握しているのは、燭台切光忠と薬研藤四郎、三日月宗近。
まぁ、これくらいだな」
山姥切国広を含めた4振がこの本丸に長くいる刀剣男士で、特に主を大切に思っている。
だから主がどんな性格をしているのかもよく分かっているし、霊力を使う前には釘を刺すことが出来る。
「なるほど、霊力を使いすぎると眠ってしまう訳か」
「ああ、そういうことだ。月見なんかしなくても、眠れば霊力も回復するだろうが。
満月の日は霊力の回復も速いし得られる力も強いぞ」
主の霊力に関する事情を知る人数は少なくていい。
刀派に1人か2人くらいいれば丁度いいと言う。
これで一文字一家の日光が加わり、事情を知る刀は5振になった。