第1章 眠り姫
燭台切光忠も、手加減なんて格好悪いだけだと言っていたことをふと思い出す。
が、その日光の一瞬の隙を突いて、山姥切国広渾身の逆袈裟斬りが決まる。
「はあぁぁッ!!」
「………く…っ!」
ブォン、と音を立てて山姥切国広の刀の切っ先が日光の頬を掠り、眼鏡を飛ばした。
その傷口からは、血が垂れている。
日光の背が高いこともあり、上手く避けたため傷は浅く済んだ。
汗で湿った前髪を掻き上げて、刀を鞘に納めた。
日光はふーっと息を吐き、落ちた眼鏡を拾う。
「日光、ためになった。感謝する」
「…それは俺も同じだ、礼を言う」
眼鏡を掛け直して一礼をした。
礼に始まり、礼に終わる。
「悪い、日光。顔に傷を作ってしまったな」
「大した傷ではない、すぐに治る」
「だが、手当てはした方がいい」
「そうだな、手入れ部屋へ行くか」
手合わせを終えて、手入れ部屋に行く。
「よぉ、日光の旦那。ん?どうしたんだ、その顔の傷」
「あぁ…、手合わせ相手にやられてしまってな」
「すぐに手当てしてやるよ。そこに座ってくれ」
「すまない」
指定された場所に座り、眼鏡を外して待っていると薬研は救急箱を棚から出した。
「傷口は浅いから、これならすぐに治るぜ。
日光の旦那の顔に傷を付けるなんて、相当の手練れだな」
消毒後にガーゼとテープを貼られる。
他の刀達や南泉は、あの時以来滅多に負傷を負わなくなった日光の頬に手当てが施されていることに驚いていた。