第1章 眠り姫
収穫が終わった主は、着物に着替えた。
「出掛けるのか?」
「ええ、ちょっと万屋へ」
今日の近侍は燭台切光忠。
主の万屋への付き添いは近侍の務めで、主から同行を頼まれない限りは、近侍しか同行出来ない。
「主、そろそろ時間だよー」
「はーい、今行くー!」
行ってくるねと、玄関へ向かう主は羽織を着て楽しそうな顔をしている。
「…ああ」
扉の向こうに消えていく燭台切光忠と主を見送る。
近侍になったことはあるが、万屋に付き添ったことは一度もなかったなと気付く。
自分が近侍の時、たまたま主が外出していないだけか。
普段から厨房を仕切っている光忠は主の付き添い。
歌仙兼定や小豆長光は遠征で厨房には誰もいなくて、今なら静かに葡萄酒を仕込むことが出来る。
「今のうちに白葡萄の葡萄酒も仕込んでおくか」
葡萄酒が完成したら、一番最初に報告をする。
それが主とした約束。
毎日適度に黒葡萄の方も様子を確認しているため、発酵が順調に進んでいるようだ。
「いい感じだな」
完成したら、主に飲んでもらおうと思っている。
主は万屋に行くと言っていたが、何を買いにいったのだろうか。