第1章 眠り姫
「手伝おうか」
「もう終わりにしようと思っていたから大丈夫よ、ありがとう」
まさか主の葡萄棚が2ヶ所あるなんて、と驚いている。
片方は黒葡萄、もう片方が白葡萄。
相当な葡萄好きか、と突っ込みを入れたくなるほどに。
まだ枝にぶら下がっている白葡萄の房を見ていると、隣でよいしょと声がしてハッとした。
「……うぅ、やっぱり重たいな…」
「貸せ、まったく…主はすぐに無理をする」
「………!」
その言葉を聞いて、主はくすくす笑う。
「………何だ」
「いいえ、以前にも同じこと言われたなと思って。
日光は気を遣って言ってくれてるんだよね、ありがとう」
「…………」
そっぽを向いてしまったが、自分の胸の辺りが妙に温かい。
主が笑っているからか、すぐ近くにいるからか。
それともありがとうと言う言葉が、ただそうさせるからか。
「白葡萄の葡萄酒も興味深いな」
「…じゃあそれ、日光が全部使って?今回は私だけで収穫したから昨日ほどの量もないし。
食べる分ならまた収穫すればいいし、ね?」
「では、主の言葉に甘えて頂くとしよう」
完成したら教えると約束を再度した。
こんな自分が、主と2人だけの約束をすることが出来るとは。
主も他の刀達には話していないみたいで、2人だけの秘密を持っているみたいで何だか嬉しい。