第1章 眠り姫
厨房には光忠がいて、夕餉の支度をしている。
「収穫、終わった?」
「ええ。光忠と日光が使いたい分を持っていって構わないから」
籠の中の葡萄を見て、光忠も驚いていた。
「豊作だね。ありがとう、主」
主はお疲れ様、と手を振りながら執務室に戻って残りの仕事を片付けに行く。
葡萄酒を仕込むために日光は厨房に残り、光忠と話をしている。
「へぇ、日光君は葡萄酒を仕込むのかい?いいね。
僕は何に加工しようかな」
腕が鳴る、と張り切りながら光忠は厨房の棚を覗いていた。
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葡萄酒の仕込みを終えると、日光は主がいる執務室へ向かう。
彼女が仕事を貯め込んでいるのなら、自分が手伝わなくては。
執務室の扉を開けば案の定、主は机に向かって仕事をこなしている。
「あまり自分を追い詰めるな」
「日光、仕込みはもう終わったの?」
「…ああ。完成したら一番最初に報告する約束だ。待っていてくれ」
「楽しみにしてる」
また書類に目を通す。
それを後ろから覗き込む日光の後ろ髪が主の頬に触れて、背後に日光がいるのだと思うと胸の高鳴りが止まらなかった。
「………っ」
「手伝おう」
「い、いいよ、遠慮させていただくわ。これは私の仕事だし」
「…日光一文字は信頼出来ない、と?」
「そんなことない、日光が信頼出来ないなら頼ったりしないもの」
主の補佐も近侍の務めだ、と改めて言う。
普段主が光忠や山鳥毛を頼るように、自分にももっと甘えてほしい。
せめて、近侍として一番近くにいる時くらいは。