第1章 眠り姫
主の隣に腰を下ろすと、おしぼりを渡してくれる。
「ああ、すまない」
「まずは日光が食べてみて?」
皿に乗せられた葡萄を差し出して、食べてと言う。
日光は房から1粒取って口へ運ぶ。
「…味は、どう?」
「うむ、瑞々しく芳醇…。酸味も絶妙だな。
甘みも申し分ない、良い葡萄だ」
「よかった…」
胸を撫で下ろす主。
日光の口に合う味になっていて、本当に良かったと安堵した。
それに、あの感想。
夢の中の日光と同じだったけど、これは自分の胸の内にしまっておこう。
そう決意し、自分も1粒手に取って口に運んだ。
「美味しい…!これなら他の刀達も喜ぶわ」
「…ああ」
「日光も葡萄酒を仕込みたいと言ってたよね。
葡萄はまだ沢山あるから、好きなだけ持っていって構わないから」
「感謝する。美味い葡萄酒を仕込まなくてはな」
皿に乗った葡萄を日光に渡して、主はまた葡萄棚へと戻った。
「ほう、やってるな…」
「お頭」
「これが例の葡萄か、立派に成長したな。
どれ、私も頂くとしよう」
山鳥毛が先程まで主が座っていた場所に腰を下ろして、日光の隣に置いてある葡萄をつまむ。
「これは美味だな。小鳥が一生懸命育てていたのが分かるよ」
「俺が顕現した頃は葡萄棚なんて無かったはずなんですが…。
なぜ急に葡萄なんでしょうね」
その話は一緒に葡萄の苗木を買いに行った山鳥毛は理由も知っているが、
日光には主に直接聞きなさいと言った。