第1章 眠り姫
「怪我をしないようにな」
「ええ、ありがとう」
葡萄棚へ向かうと、張りのある実を付けた葡萄が実っていて、いい匂いを放っている。
「さて、始めましょうか。葡萄は繊細だから丁重に扱ってね」
日光に収穫ハサミを渡すと、颯爽と収穫の支度を整える。
「高い場所の物は俺が採ろう」
「お願い」
主と日光は葡萄棚に入り、早速収穫を始める。
パチン、パチンと枝から葡萄を切り離し、丁寧に籠へと詰めていく。
日光の方を見ると、彼もまた真剣に収穫を手伝ってくれていて。
「……あ、これは私の身長じゃ届かないな」
葡萄棚の高い場所に葡萄が数房ぶら下がっているのを見付けた。
自分の身長では届かないのは目に見えているが、日光は離れた場所で収穫をしている。
手際が良すぎる。
「頼めば採ってくれるって言ってたっけ…。
頼むしかない…よね…」
小走りで日光の下へ行けば、真剣に収穫をしている日光の横顔が目に飛び込んできて。
彼のその横顔があまりにも格好良くてドキドキする反面、邪魔をしたら…と尻込みをしてしまう。
「どうした、主」
視線はこちらに向けないけれど、自分がいることには気付いてくれたようだった。
自分じゃ届かない場所に葡萄があったと話すと、採ってやろうと言ってくれた。
「…あれなんだけど」
「……あれか。分かった」
指された場所にある葡萄をそっと掴んでパチンと枝を切ると、何も言わずにスッと主に渡す。
「ありがとう」
高いところにある葡萄を幾つか採ると、これもまた主に差し出す。