第2章 試行錯誤 (太宰治)
「んー、まあなんつーか、彼奴は…来る者拒まず去るもの追わずって感じだよな」
『わかります、やっぱり好きなタイプはないんでしょうね』
「そうだな」
『でもどうしたら…今の関係は最悪な気が』
「俺は探偵社員じゃねえから知らねえが、そんなに悪いのかよ」
『はい…だって太宰さんが急に現れて、心の準備ができていないっていうのに、おどかしてきたり、ふざけてきたり、甘えてきたり…私の心臓がいくつあっても足りません!冷たくなっちゃうのは仕方ないじゃないですか!!』
「落ち着けよ…」
『何かいい方法は…』
「まあ、悪い関係ではないんじゃねえの?」
『え、そうですかね…』
「だってよ、月宮が一方的に冷たくしてるだけなんだろ?」
『冷たくしてるつもりは無いんですけどね…ついやっちゃうんです』
「押してダメなら引いてみろ、なんてのがあるが…それは逆も然りだ」
『引いてダメなら押してみろってことですか?』
「そういうこと」
『でも太宰さんはきっと、【どれだけ好意を吹っ掛けても気づかないし、むしろ興味を示さない女性】の私に興味を持っているだけなんじゃないですか?』
「成程な、そしてその好意に応えたら、月宮も他の女と同じなのかって興味をなくされるかもしれねえってわけだ」
『そうです…』
「そりゃ無ぇな」
『え』
「確かに、彼奴としてはそれで面白がってるつもりかもしれねえが、手前らの関係からしたらそれが普通なんだろ?」
『はい…』
「彼奴は予定調和に飽きているだけだ、月宮が太宰に冷たくするのが普通なら、冷たくしなかった場合、それが太宰にとって予想外になるってことだ、だから彼奴は予想外な月宮に興味を無くせなくなるな」
『成程…?予測不能な行動をすればいいんですね』
「極端に言うとそうだな」
『頑張ってみます…』
「あと彼奴のことはあまり詮索しない方がいい」
『というと?』
「太宰について色々知りたくなるのはわか…らないが、」
『ふふっ、そうですね』
「彼奴は何も聞かない女が好みらしい、つまり色々聞きすぎるのもよくねえっつーことだ」
『知ってるじゃないですか、好きなタイプ』
「好きなタイプにしちゃあ抽象的すぎねえか?」
『何も聞かない女…』
「好きな相手に何も聞くななんて、趣味の悪い野郎だぜ」