第1章 ひとたび風が吹けば
第三者side
そんなこんなで安土へ向かう事になった一行は堺に潜ませていた光秀の部下と共に堺を旅立とうとしていた。
「そのまま馬に乗せてしまえば皆腰を抜かして驚くだろう。駕籠で運ぶ方がいい」
「私重いですし…その、申し訳ないです…」
「利用できるものはしておくべきだぞ、七瀬」
「駕籠は既に準備済みですので。ささ、お乗りください」
「わ、わかりました…」
絶えず新たな押し問答が続きながらも七瀬が折れる形で事が運ばれていく。安土へ向かう道中でふと、七瀬が光秀へ問う。
「あの、そういえば名前を聞いてなかったなって…」
「あぁ、俺は光秀という。俺の反対側にいるのは九兵衛だ。まあそう焦らずともじきにそれぞれ名もわかるだろう。覚えられるかはお前のおつむ次第だが」
「むっ…それって馬鹿にしてます?」
「さて、どうだろうな?」
名前を聞いただけで手のひらで踊らされるような感覚でからかわれた七瀬はむっとした表情で光秀へ噛みつく。それを受け流すかのように言葉を返す光秀に七瀬は新たな問いを投げかけた。
「じゃあ安土ってどんなところなんですか」
「そうだな。信長様が楽市楽座を開かれたとあって、物の流れが活発だ。それに加え警備が手厚いせいか、山は近くとも野盗は少ない」
「平和な街なんですね。私の故郷もそうでした」
景色や安土の城について一切の説明もなく、政以外を話さなかった光秀の言葉のうちからただただ平和ということを汲み取った七瀬の理解力は凄まじいと言えよう。
そんなやり取りを繰り返し、2日ほど野営を挟みながら進んだ末、ようやく安土の地へ足を踏み入れた。
「ここが安土…」
「まずは信長様にご報告にいかねば。九兵衛、先に行く。七瀬のことは説明しておく。御殿へ案内してやれ」
「仰せのままに」
「じゃあここでお別れですね。お気をつけて」
1度光秀と別れた七瀬達は光秀の住まいである御殿へと訪れた。