第1章 ひとたび風が吹けば
どうするつもりか、と問いかけられれば、七瀬は得意げな顔をしてぐい、と持っていた巾着を広げ、深紅の液体が入った小瓶を取り出した。
「これを飲めば万事解決です!」
「そ、それ、飲んでも大丈夫なんですか…?」
不安げに小瓶を見つめる舞をよそに、七瀬はかぽりと蓋を開けて一気に飲み下す。最後の一滴が喉の奥へ滑っていくと同時に、七瀬の尾鰭についていた鱗が段々と落ち始めた。
「わっ…」
「鱗が…!七瀬さん、ほんとに大丈夫なんですか?」
「他にはなんにも異変は…」
ない、と言いかけた時、全ての鱗が落ち切り、人間の足と言えるような形へと変わり始めていた。
「す、すごい…」
「き、着物着ててよかった、これ多分裸になっちゃってたかも…」
完全に人の足へとなり変わったのを見届けると、七瀬は改めて手伝いの申し出をする。
「これで歩けるので掃除させてください!」
「わ、わかりました。ではこちらで集めていただけると」
家臣である尾瀬は目にした異様な光景に戸惑いつつも掃除道具を渡す。それを受け取った七瀬は掃除をしようと、足に力を入れ、立とうとした。しかし、立ち上がった時、不意に膝から力が抜けてがくりと足が膝をついた。
「ひ、人の足はじめてだから移動の仕方が…」
「ふふっ。そのうち慣れるでしょうし、ゆっくりで大丈夫ですよ」
「移動がしにくいので近くのものから集めますね」
「姫様もですが、七瀬様も努力家なのですね」
へにょへにょと座ってしまう七瀬に舞が気遣いの言葉を投げると、それをすんなり受け入れ、できることから始めようとする向上心に、尾瀬は関心を顕著にする。それに照れたように七瀬ははい、と答えを返した。