第1章 ひとたび風が吹けば
不意に投げられた問いかけはおそらく外の国にいたからだろう。こうして日ノ本に順応している理由はひとつしかない。
「私の故郷は元々ここでしたので…」
「ほう。つまみ出された村へ里帰りか?」
「言い方刺々しいですね…。里帰りではなく噂を聞いたので駆けつけた次第です」
優しげな口調にも関わらず、尖った言い方のそれへ軽くつっこみながら事情を説明すると考えついたという顔でこちらに顔を向けるその人に蔑む目を返す。
「おや、そんな目で見られるとは。悪いようにはしないから聞くだけでも聞いてみろ」
「…聞くだけですよ」
「なに、安土で織田ゆかりの姫の世話係を頼めないかというだけだ」
「かなりスケールが大きいですね」
あまりの規模の大きさに半目になりながら答えたそれに男が首をひとつひねる。
「すけーる、とはなんだ」
「あぁ、規模のことですね。物事の規模や大きさの程度をあらわすんです。人の度量や考えの大きさをあらわす時もあります」
「成程。そのすけーるとやらが大きいことに問題があるのか?」
「ありまくりです。まず私が世話係やらなんやらに立って何をするんですか」
「そうだな。世話係は単に世話をするだけだが、それ以外の仕事となると南蛮貿易だな。南蛮貿易などについては俺たちの知識など無に等しい。お前ならば南蛮の知識に詳しいはずだ。その能を活かす仕事でもしてもらおうと思うが」
各国の海を渡り、時にはその文化を楽しんだこともあるというのを見透かしていたのか。あるいはかま掛けか。どちらにせよこの男は自身の利になることを考えているに違いない。それならば。
「断ればどうなるとか…」
「地獄を見ることになるな」
「どうしてそう恐ろしいことを…」
「おやおや、名付けた恩を仇で返すのか?」
「くっ…それを言われると良心が…」
そんな応酬を2回ほど繰り返した末、九兵衛さんの押しもあってか陥落してしまった。