第1章 ひとたび風が吹けば
堺、宿にて
七瀬side
ひとまず、と助けあげてくれた白銀の髪を持つその人に抱かれ、宿へ向かう。着いた先では九兵衛と呼ばれていた人が、おそらく私用だと思われる桶を持って待っていた
「見たところ魚のようですし水に浸かられては如何かと」
「あ、ありがとうございます」
半魚人をご存じでないのか否か、この2人の考えはいまいち掴めない
「さて。ひと段落もしたことだ。お前の素性を改めさせていただきたい」
「場合によってはどうなるとかありますか?」
「火の海へ放り込まなければいけないな」
「さらっと怖いこといいますね…」
流れるように恐ろしいことを口にするその人へ些か恐怖を覚える。自らの素性を明かさねばこの身が焼け死ぬと言うのか。
「安心しろ。素直に吐けばお前の身ひとつは助かる」
「はあ。助けていただいた恩もありますしそれくらいは答えますよ」
「それはそれは。助けた甲斐もあったな」
「絶対信じることが条件ですよ」
「わかっている」
実に自信満々な様子で笑みを浮かべられれば否と言う訳にも行くまい。恩も感じていることから、私はここ数百年の出来事をまとめて話した
まず、500年前故郷から追い出されたこと。それから多くの海を漂ってきたこと。名は追い出された時に捨てたこと。ひとつひとつ教えていくうちに笑みを浮かべていた顔は段々と真剣味を帯びた
「…と、ここまでが500年前の話で…」
「ふむ。にわかには信じ難いが、お前は人魚とやらなのだな」
「ええ。それにしても日ノ本がこんなに難しい言葉で溢れかえっているとは思いませんでした。学びにつながります」
「そういえば外の国の言葉とやらを話さないのだな。分からないところがなくて困らないが」