第1章 ひとたび風が吹けば
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堺、海辺にて
光秀side
まったくもって、御館様は自由奔放な御方だ。
いきなり天守で囲碁勝負をけしかけられたと思えば、負けた罰に休暇とは 。
休暇など久しくとっていないのは確かだが、まさかこうして押付けられるとは思わなかった。
堺の海辺を報告待ちがてら散歩でも、とぼんやり考えていた時。
「あいたっ」
女子の声がどこからが響く。季節はまだ春、暖かいと言えど、海に潜るなんて愚行に走る輩はいないだろう。では今の声はどこからか。
岩の物陰にもどこにも気配がしない。あるのは海のさざめく音のみ。
「やっぱり泳ぐのだけは下手だなあ…」
再び海のさざめきに女子独特の声色がのせられて響く。
聞こえてきたところは海。海に潜るような季節でもなく、海辺には鋭い石が多い。
どこぞの子供が海辺をうろついて怪我でもしたのだろうか。
それならばと己の足は導かれるかごとく歩き出す。