第5章 流星群が誘う旅
「千寿郎、おはよう! 」
煉獄家の朝の風景。軽く朝稽古を終えた杏寿郎が庭から声をかけると、縁側を拭き掃除していた千寿郎が顔を上げ、笑顔で応える。
「兄上!おはようございます。鍛錬、お疲れ様です」
「ん!千寿郎も朝から掃除に励んで偉いな! 」
明るい笑顔で弟に笑いかける。朝から身体を鍛えていた兄は、額に汗を浮かべていた。しっとりと濡れた胴着の上着を脱ぎ、井戸の冷たい水に浸した手拭いで身体を拭う。
何度も見てきた朝の兄の姿だが、初夏の朝の光の中に立ち、瑞々しい肌を露わにしている兄は、千寿郎の目には兄が贈ってくれた絵本で見た、外国の本の中の美しい王子のように見えた。金色の髪が日差しに輝き、若々しい肉体は弟でも見惚れる程に美しい。
綺麗に筋肉のついた身体は、日頃の鍛錬の賜物である。千寿郎は、影の努力を怠らない兄をとても尊敬している。
昨夜、少し遅めに帰宅した兄の隊服から、甘い香りが微かにした。昨夜は大河内のおじさんの誘いで出かけていたけれど、おじさんは兄上をどこに連れて行ったのだろうと思っていた。
兄と大河内美也子さんの間柄も気になっていた。杏寿郎の妻候補は何人もいて、美也子さんはその一人だと思っていたけれど…。おじさんは杏寿郎の事を大層気に入っていて、昔から杏寿郎を可愛がっていた。
昨夜は美也子さんも一緒だったのだろうか。兄上は何も話さなかったけれど、今朝はいつも通り、早起きして鍛錬をし、千寿郎に明るく笑いかける。
全くいつも通りの優しい兄上だ。
千寿郎は何も聞かない事にして、水の入った桶を持つと片付けに洗面所へと向かう。千寿郎は毎朝、家の床や柱を綺麗に水拭きしている。千寿郎にとって、これは日課で、その後朝食の支度をして朝餉の時間だ。
「今日のお味噌汁は何にしようかなあ、そうだ」
ご近所さんからいただいた生麩がある。これに浅葱を浮かべて、と。
千寿郎はお料理が割と好きなので、朝ご飯の食材の組み合わせを考える時には自然と鼻歌が出てきたりする。
「ふっふぅ〜ん。松の木陰で逢引きすればぁ〜♪ 」
ちょっとおませな歌も得意だったりする。