第5章 流星群が誘う旅
「おモテになりんすな。どういたしんしょう」
くすくすと笑う浮舟の手首を掴んだ。
「…あっ…」
強く掴まれ、このまま布団に押し倒されると思った。どのような男か興味がある。これから朝になるまで、その身体の内に秘めた欲を激しく打ち付けるのだろうか。浮舟の白い喉がゴクリと上下する。
期待と少しの怖さにも似た思いで杏寿郎の次の動きを待っていたら、ふわっと腕を掴む力が抜けた。
「俺は帰る。大河内さんが帰るのは明け方だな。その頃に、君も表に出て俺を送った振りをすると良い。俺は弟が待っているからもう帰る」
杏寿郎は立ち上がる。浮舟はそれまでの余裕が剥がれ、慌てて両手を床に着いた。
「ちょ…主さん、泊まってくれねぇと、わちきは一人になりんす」
今夜、この男に抱かれたい。そんな気持ちになる事なんて、今までなかった。
「弟さん…て、小さい方でありんすか」
「十一になる。俺は普段夜に家を空けるから、時間がある時は一緒にいてやりたい」
胸ポケットに手紙を入れると、部屋を出て行こうとする。
「わ…わちきの事が、嫌いなんざんすか⁉︎ 」
こんな客は初めてだ。浮舟は涙が滲んだ。微笑みをくれてやるだけで、どんな男も情けないくらい腰抜けになるのに…。
杏寿郎は凛々しい顔を上げ、真っ直ぐに浮舟を見た。
「浮舟、君の事が嫌いな訳じゃない。俺はまだ、遊びで女御を抱いたりしたくないだけだ。君はきちんと仕事をしたと思う。失礼する」
「名前、主さんの名前を教えておくんなんし! 」
「俺の名前は煉獄杏寿郎だ」
しゃがんだまま、浮舟は杏寿郎を見上げた。
「わちきの心に火をつけて、嫌な主さんでありんす。ようざんす、意地悪には、意地悪で返すのがわっちでありんす。わちきにまた会いに来てくれなんし! 」
杏寿郎のような男にひれ伏してもらわねば気が済まない。それに、あの身体を好きなようにしてみたい。
浮舟の中に、あんな男に愛されたいと言う気持ちが猛烈に湧き出した。それは、女心を乱すような風貌の杏寿郎に惚れてしまったせいかもしれないが、浮舟という一人の女に恋心を抱かせてしまう出逢いであった。