第4章 白梅と月夜の友人
「これは誰の物でもない!おじいちゃんの宝物なの、渡さない! 」
ひなたは白梅をぎゅっと抱きしめると、橋を渡り走った。
「ひなたちゃん待てよ」
憲伸が追いかけてくる。普段から身体を鍛えているのか、憲伸はあっという間にひなたに追いつき、背後からひなたの身体を抱きしめた。
「やっ…!離して!! 」
「暴れると危ないよ。…ああひなたいい匂いがする…」
憲伸は後ろから伸ばした腕でひなたを柔らかく抱きしめると、耳元の香りを嗅いで吐息を漏らした。
「ねぇ。その白梅は次期後継者が受け継ぐものだよ。僕が一番相応しい。他の親戚は大人しいだけでリーダーになんてなれない奴ばかりだ。当主になったらすぐに結婚する。ひなたちゃんは当主の妻になれるよ。僕が愛してあげる」
二人だけなのをいい事に、この時を幸いにと、普段は触れる事のできないひなたの身体に触れ、身体の線を確かめるように撫でた。
「凄く良い…スタイル抜群なんだね。ずっと好きだった」
ひなたにメッセージを送っても、返事すらない。つれない親戚の女の子が可愛いくて触りたくて仕方がない。
「憲伸君」
ひなたは憲伸の腕の中で白梅を庇いながら呟いた。
「何?ひなたちゃん」
名前を呼ばれて憲伸の身体から少し力が抜ける。大好きなひなたをこんなに近くで感じられるとは…。耳元から頬に唇を這わせようとした時、ひなたの肘が憲伸の鳩尾を思い切り突いた。
「…っうっ!! 」
ひなたの身体と香りで蕩けていた憲伸は通常の機敏さをすっかり失っている。そもそも、ここに来た目的さえも忘れひなたに溺れかけていた。そんな憲伸の隙をついて、ひなたは憲伸の腕から逃れる。
「私は大っっ嫌いだから!結婚とかありえないし、滝の水で顔洗ったら⁉︎ 」
橋の下に流流と流れ込む滝の水音に負けない声で叫んでやった。
身体に触れられ耳にキスされた事が気持ち悪すぎて、ひなたは我慢ならず大きな声で罵った。
前屈みになって鳩尾を押さえている憲伸は、ひなたを下から見つめる。
「僕に…こんな事していいと思ってるの…? 」
ひなたはくるっと体の向きを変えると、池の方に向かって走り出す。