第4章 白梅と月夜の友人
冷えた夜の空気が頬に冷んやりと触れる。広々とした庭を素早く見回し隠れる場所を探す。
…隠れる場所…場所…。
庭の端の方にある立派な松の木が見えた。向こうは暗がりだ。照子叔母さんもあそこなら気がつくまい。
松の木まで一目散に走る。胸に抱いている盆栽がズシリと重かった。夜はライトアップされているけれど、昼間よりは暗い庭は、夜の空気の中静かだった。ひなたの玉砂利を踏み締め走る音が、流れる水路の涼やかな音に混じる。
橋を渡る手前で、誰かが立っているのに気がついた。水路を覗くようにして立つ男の後ろ姿だ。
薄いコートを羽織った、がたいの良い身体。短く切り揃えた髪。燻らす煙草の煙が辺りの空気に混じり煙の匂いが微かにした。
男は玉砂利の靴音にふと顔を上げ、目を凝らす。夜の中で、キラキラと輝くプラチナブロンドの髪が見えた。
くわえていた煙草を水路に投げ捨てると、愛する親戚の姿を見て笑みが浮かぶ。
「ひなたちゃんじゃない。誰かと思った」
「憲伸君…」
照子叔母さんの息子の憲伸だ。ブランドの服で身を固め、何も知らなければ、素敵なエリート医師である姿に騙される女性もいる事だろう。
「久しぶりだね。ひなたちゃん、今日は一段と綺麗だ。お仕事だったの? 」
にこやかに微笑みながら近づいてくる。憲伸の目はひなたが抱いている白梅に向けられた。
「母さんが言った白梅ってそれ? 」
ひなたは後ずさった。
「何のこと?これは桜の木よ」
憲伸は、盆栽とひなたの顔を交互に見た。薄い唇に浮かんた浅い笑いは、人を見下しているかのようだった。
「騙されないよ。ひなたちゃん、持ってどこに行くつもり? 」
憲伸はひなたの方へと歩み寄る。