第1章 吉兆を告げる白梅
煉獄家にも白梅はあるけれど、また咲いていない。今月の末頃には咲くだろうと、庭師と話したばかりだ。
お館様は、今日の為に奔走されたのだろう。白梅に託したお館様様の想いが感じられた。
まだお小さいが、人並外れたお心遣いをされる方だから。
槇寿郎はしみじみと思った。
「それでね、槇寿郎。私は初めてお見合いをするのだけれど、もしもお相手の神籬あまね様が、私を気に入らない場合、私はそのお気持ちを尊重しようと思う。だからその時は私からお断りをする。という形でこの縁談を解消しようと思っているんだ。槇寿郎はどう思う?」
初めての縁談で心配な事がおありだろう。
槇寿郎は半ば父親のような気持ちで、真っ直ぐに耀哉を見た。
「神籬様のお立場を配慮されるなど、お館様らしいお考えです。もしも神籬様がこの縁談に乗り気ではなかったとしても、神籬様から断る事は難しいと存じます。お館様のそのお心遣いはきっと、あまね様の不安なお気持ちに寄り添い、お心の負担を軽くすることでしょう」
耀哉はほっとした顔をする。
「ありがとう、槇寿郎。それが心配だったんだ。あまね様に、そうお伝えする事にするよ」
槇寿郎は静かに立ち上がる。
「お館様、それでは私は神籬家の皆様をお迎えに行って参ります。私の何に代えましても、あまね様をお守りし無事にお連れ致します」
身体から一分の隙もない強さを放つ炎柱の言葉に、耀哉は頷く。
「任せたよ。槇寿郎、君に頼んで良かった。槇寿郎のご子息は幾つだったかな」
「九つになります」
耀哉の美しい瞳が優しく微笑んだ。
「そう。今度は息子さんの話を聞かせてくれるかな」
槇寿郎は頭を下げて部屋を出た。表には神籬家の人を乗せる為の車を待たせてある。今日、槇寿郎は神籬家の人を迎えに行き、お館様とあまね様の縁談に付き添いまた無事にお送りする。
この縁談は上手くいくだろうか。産屋敷家の特殊な事情を知って、縁談に応じてくれる神籬あまね様が、耀哉様の光になってくれれば良いと、槇寿郎はそう願わずにはいられなかった。
白梅の花が、吉兆のきざしであらん事を。