第1章 吉兆を告げる白梅
「よく来たね、槇寿郎」
産屋敷家の茶室には、季節の花々が生けられている。
二、三日前にはユキヤナギやトサミズキが柔らかく華を添えていた部屋には、二月の初旬にはまだ早い、白梅の見事な枝が生けられていた。
穏やかに座している産屋敷耀哉は、槇寿郎の姿を見ると、柔らかな微笑みを向けた。
「早く来てくれたのだね。ありがとう」
「お待たせ致しました。お館様、それでは私は早速行って参ります」
耀哉に深々と頭を下げると、槇寿郎は音も立てずに素早く立ち部屋を出ようとした。
「槇寿郎、その前に、少し話をしよう」
今日はお館様にとって大切な日である。槇寿郎は自分の任務を果たさんと、やや緊張していた。産屋敷耀哉は、普段は堂々とした炎柱の、額に浮かんだ僅かな緊張を解そうとお薄を立て始める。
「槇寿郎にお茶を一杯、差し上げても良いのかな」
「…勿体無い…」
刀を置いて、美しい所作で耀哉の前に正座した槇寿郎に、耀哉は頷いた。
「今日は、忙しい槇寿郎に私の為に動いてもらって、ごめんね」
自分よりも歳上の槇寿郎にも、おおらかな眼差しを向ける。弱冠十三歳とは思えない落ち着きのある耀哉は、先代と同じ柄の羽織を纏い、産屋敷家の若き当主として威風堂々として見えた。
「お館様こそ、大切な縁談が控えていらっしゃいますのに…。私の為に温かなお茶を、ありがとうございます」
槇寿郎は静かに頭を下げて、お薄の入った志野焼の茶碗を手のひら全体で包み込む。
「二月は、一月を凌ぐ寒さだね。今日は雨も降っていて、お相手の方がこの雨の中を来てくださると思うと、申し訳ない思いになるんだ」
人の心を震わせるような、不思議な心地のする耀哉の声に包まれ、見守られながら口に含んだ。
温かなお茶は槇寿郎の冷えた身体を温めて、槇寿郎は白梅の美しい枝ぶりに目をやった。
さっきは気がつかなかったが、梅の香りが優しく部屋に漂っている。
「お館様の温かいお心は、きっと神籬様にも伝わる事でしょう。このようにまだ珍しい白梅でお迎えされるなど、感服致しました」