第1章 吉兆を告げる白梅
槇寿郎は妻亡き後繰り返される、こんなやり取りが嫌だった。
杏寿郎に優しく接する事ができない。息子を愛している。でも、自分の跡を継げとは言いたくない。
鬼狩りの名家として煉獄の名を背負い、最前線で闘い抜け、などと……。
大切な息子の命まで散らせというのか。
…俺だけで十分だ…。
最愛の妻を亡くし心の安寧を失い、悲しみばかりが日々積み重ねられていく。
息子は自分を憧れの眼差しで見てくるが、冷たい言葉で会話を終わらせる。
「柱が大層な者のように言うのはよせ。所詮、大した者にはなれないのだ……お前も俺も」
こんな言い方をすることで、また自分も傷つくのは分かっている。
父の言葉に口ごもる杏寿郎を置いて玄関の引き戸に手をかけた。
いつも、見送りをする杏寿郎に背を向ける瞬間。
「父上!いってらっしゃいませ! 」
振り向かなくても、杏寿郎は笑顔で自分を見ている事は分かっていた。
どんなに冷たく突き放しても、いつも杏寿郎は見送りに来る。何をしていても、急いでやってくる。
無事に帰って来て欲しいと、父を慕う息子の声に応える事なく、槇寿郎はピシャリと戸を閉めた。