第4章 白梅と月夜の友人
「うっ、寒い」
四ツ谷でバスを降りてから、家まで歩いて帰る途中で、ひなたは着ていたジャケットの前ファスナーを手繰り寄せて上げた。
もう晩秋の冷たい風が身に沁みる。
コツ、コツと、人気のない路地を一人歩いていると、暗い通りにひなたの履いているショートブーツのヒールの音がやけに響いた。
街灯があるとはいえ、大通りから逸れると家までの道で暗い場所がある。早足で通り過ぎようと急いでいると、ふと、視線を背後に感じる…。
暗い夜道がそうさせるのか、疑心暗鬼なのか。なんだか誰かに後をつけられているような気がしてギクリとした。
…落ち着いて。焦らないで家までダッシュするか…。
これまでも、帰り道に後をつけられる事は何度もあった。仕事で遅くなって帰る時、ひなたが後ろを振り返ると、とても恥ずかしそうに『ファンです…』と言われる事が一度や二度ではなかった。
今はモデルを辞めているし、服装もだいぶカジュアルになったけれど、それでもやはりひなたはとても目立つ。
ひなたは走る事にして、全力で走り出した。こちらが急に走れば面食らって付いては来られまい。
足の速いひなたは、長い脚で駆けた。
ところが、ついてくる。ひなたと同じスピードで後ろからついてくるのだ。
普通、追いかけて来る時は向こうも必死だから息づかいや足音も大きくりそうなものなのに、静かに追いかけてくる。
「え…?やだ…怖い…やっぱり不死川さんに送ってもらえば良かった…」
後悔しても遅いけれど、恐怖で泣きそうになりながらも走り、やっと家の前にたどり着いた。家の前には紗奈の車が停まっていた。
「紗奈ーーっ!!紗奈!! 」
車に飛び付き、窓ガラスにへばり付くようにして叫んだ。
「何それ、あんた」
中からゲラゲラ笑いながら紗奈が車の窓を開ける。
「早く!早く来て!私、後をつけられてるの!! 」
「うっそ、誰もいないじゃん」
車から降りた紗奈は辺りをキョロキョロ見て言った。
「本当につけられたの!全力で走ったら同じ速さでくるの! 」
少しパニックになりながら言うと、紗奈はひなたの走って来た方に目を凝らす。