第4章 白梅と月夜の友人
「こんにちは、お姉さん」
ひなたに声をかけてくれる子供にニッコリ笑うと、嬉しそうに笑って走って行った。
産屋敷学校は楽しそうな学校だ。ひなたは学生時代、仕事が忙しくて学校を休みがちだったので、ここでもう一度学生をやり直すのも良いかなと思った。
大好きなおじいちゃんの家でもあるし、つい甘えようかという気持ちになりそうだ。
「ダメダメ。働かないと! 」
働く事にこだわる必要はないのかもしれない。何をしたって良いのだ。でも、13歳の頃から働いているひなたは、仕事がないと落ち着かない。
家の中に入ると、幾つかの部屋から声が聞こえている。美しい庭に面した表座敷と次の間、そして下の間と座敷が続いている。それぞれの部屋では授業が行われているようだ。時には襖を取れば大きなお座敷になる武家屋敷の造りである産屋敷家。今日は張りのある、よく通る声が響いていた。
数学かな。向こうの部屋からは、別の教科らしき声が聞こえてくる。
おじいちゃんの部屋へ行く道すがら、通りかかったお台所から、とっても良い香りがしていた。
美味しい匂いに引き寄せられるようにお台所を覗くと、中では一人の女性がキビキビと動いていた。
「どうかしましたか?見学の方ですか」
お台所をそっと覗いていると声をかけられた。凛とした声の女性だ。忙しなく手を動かしながらひなたを見る。
「あっ、こんにちは。祖父に、会いにきました」
エプロンを着けた女性はニッコリ笑った。
「先生のお孫さんですね。初めまして。今、オヤツを作ってるところなんです。見ますか? 」
「はい! 」
ひなたが近づくと、女性は微笑んでから見せてくれる。
女性は手早くフライパンの中身をひっくり返した。薄く焼けたクレープが、ひらりと舞い落ちる。もう焼けて幾重にもなっているクレープの上に重ねると、おたまで生地をすくい、またフライパンに流して火にかけた。
みるみるうちに、新しいクレープが焼けていく。