第8章 ※ 誰を愛していたとしても…。
「それでは、私はもう少ししてから皆の所へ行くから」
「はっ!それでは失礼致します」
杏寿郎は立ち上がり襖へと歩む。その背中に、耀哉は声をかけた。
「杏寿郎、期待しているよ。いつもありがとう」
深々と頭を垂れると、杏寿郎は耀哉の部屋を出た。産屋敷家の屋敷内は、何度も訪れていないと迷ってしまう者もいる。
奥にある耀哉の部屋から、薄暗い廊下へと歩を進めていた杏寿郎だったが、ふと振り返った。
「ん…? 今、誰か物陰にいなかったか? 」
誰かが自分を見ているような、そんな気配を僅かに感じたのだが…。
「気のせいか。怪しい気配ではない…」
気を取り直し、そろそろ柱が集い始めているだろう庭先へと向かった。
草履を履いた杏寿郎の背中が、玄関の扉を開いて出ていくのを見送ると、奥の座敷からひなたがひょっこり顔を出した。
「バレたかと思っちゃった」
杏寿郎に見つからないようにこっそりと隠れていた。今日は柱合会議だ。半年に一度、柱たちが一堂に会する特別な日。
ひなたは呼ばれていないけれど、杏寿郎が行く場所について行きたかった。
「きっと駄目って言われてたはず…。遊びではない!とか言うんだな」
黙ってついて来て良かったと思いつつ、ひなたも杏寿郎の後を追って外へ出る。師範に見つからないようにだけ気をつけて、白くたなびく美しい杏寿郎の羽織りを目印に、こっそりとついて行った。
柱が集まる事もあり、今日はいつにも増して隠の人が多い気がした。あちらこちらで何かしている。杏寿郎はすれ違う黒服の人に挨拶を返して、颯爽と歩いて行く。
そんな姿を追いかけるのも、だんだん楽しくなってきて、かっこいい後ろ姿を見失わないよう、杏寿郎にバレないようにと思うと笑いが込み上げてきそうだった。
「煉獄さんって、素敵だな」
一人で呟きつつ、杏寿郎の金髪を眺めていると、向こうの方で言い争うような声がしている。
いつも静かな産屋敷家では珍しい。ひなたは声のする方へ歩いて行った。
「だから、その箱には何が入ってるかって、訊いてんだろォがア 」
とても懐かしく、聞き覚えのある声がした。
つい最近、聞いた気がする。
「不死川様、こちらは大切なお預かりの品でございます…! 」
「こっちに寄越せってェ。それ変な感じがするぜェ」