第8章 ※ 誰を愛していたとしても…。
「ひなたは、どんな感じかな? 」
間も無く柱合会議が始まる。その前に、杏寿郎は産屋敷耀哉の部屋に呼ばれた。
卓を挟み、尊敬するお館様と向かい合っている。鬼殺隊士なら憧れ、もしくは緊張で打ち震えてしまうような場面である。
杏寿郎は慕う気持ちの方が強いので、礼を重んじつつも本来の杏寿郎の力強さを感じさせる、明るい雰囲気は失われる事はない。
そんな杏寿郎を産屋敷耀哉は好ましく思った。
耀哉は杏寿郎からの言葉を、微笑を浮かべ待っている。
「良く頑張っています。飲み込みも早く、諦めない強さもある。狭霧山でも鍛錬合宿をしましたが、鱗滝さんの激励を受け自らの能力を磨きました」
狭霧山での最後の夜の事だ。鬼に遭遇したひなたは、自分が襲われた事を思い出して取り乱した。しかし、同時にひなたは、誰にも自分と同じ辛い目にあって欲しくないと、杏寿郎に鬼の殲滅を願った。
杏寿郎の記憶にあるひなたの、そんな姿を愛おしく思いながら、目の前に座る耀哉に話をしている。
「そうか。ひなたを杏寿郎に預けて良かった」
耀哉は殆ど見えなくなった瞳を杏寿郎に向ける。温かな眼差しは、まるで見えているかのように若き炎柱に微笑みかける。
「杏寿郎にお礼をしないといけないね。ひなたを立派に育ててくれている君や、槇寿郎にも」
「礼など!今やひなたは大切な継子です」
継子。そう言った時、杏寿郎の胸の中にそれだけでは収まりきれない想いが湧き上がる。
…なんだ…昨日から胸が痛いぞ…。
継子は、近い存在でありながらも他人を感じさせる。ひなたは、それよりももっと杏寿郎の心の中に棲みついているような。
「…熱く…絡みつく餅…」
焼きたての餅のようだと思った。遠い目になりながら呟く杏寿郎。耀哉はクスリと笑った。
「ひなたの事かな? 」
杏寿郎は目を上げお館様の顔を見た。
「むぅ…」
「杏寿郎。これからもひなたを宜しくね。あの子の事で思う所があれば、何でも話してくれると嬉しいよ」
いつもの事だが、お館様の声音は聞く者の心を落ち着かせる。