第8章 ※ 誰を愛していたとしても…。
「おはよう!ひなた! 」
「お、おはよう。れ…師範」
翌日の早朝、顔を洗いに行った洗面所で、煉獄さんと一緒になった。
たっぷりとした水流でごしごし、と顔を洗っていた杏寿郎は、入って来たひなたを見るや一瞬、昨夜の口付けを思い出し胸がドキリとした。
浴衣を着ているひなたは、長い髪を垂らしていてとても綺麗だ。杏寿郎は時々、ハッとする事がある。あまね様とひなたは似過ぎている。
…あまね様にはこの胸の騒めきは感じないが…。
杏寿郎があまねに抱く想いは、尊敬や敬愛だ。産屋敷と鬼殺隊を陰で支えている美しき女性を心から慕っている。
杏寿郎は自分の後ろで顔を洗う準備をしているひなたに声をかけた。
「今朝は朝の鍛錬はできないが、早起きだな」
「うん」
ひなたはクリップで髪を纏めながら返事をしている。本当は杏寿郎と会わない時間を選んだつもりだったので、内心はバクバクだった。
「すまんな。今日の柱合会議の前に済ませたい用があってな」
洗面台をひなたに譲り、手拭いで顔を拭いている。肩よりも長い髪はキラキラと輝いていて、声も元気で全くいつもの師範だ。
…何とも思ってないのかな。昨日のこと…。
ひなたの髪を撫で、キスした時の煉獄さんは、ひなたの事を好きなのかと思うような目つきをしていたのに…。
「時間が取れたら夕方に手合わせしよう。張り切って起きてきた気持ちに報いたい」
顔を洗うひなたのうなじに向かってハキハキと話す師範に、冷たいお水で顔を洗いながらブクブク…。と泡を吹きそうになった。
「お館様にも呼ばれてるって言ってたね」
「ああ! 」
ひなたも顔を拭きながら、ドキドキを悟られないようにした。
「私のことは気にしないでね。大切な会議とお話を頑張って」
二人きりの洗面所で、間近で話をしていると、杏寿郎を好きな気持ちが顔に出てそうだった。自分だけ、そんな気持ちになるのは恥ずかしい。
「着替えてくるね」
杏寿郎の前を通り過ぎようとした手首を捕まれた。
「では、夜に勉強しないか」
「何? 」
…勉強って…。
「俺の部屋で、歴史の本でも読もう」
「…歴史好きなの…? 」
「す、好きだ」