第8章 ※ 誰を愛していたとしても…。
「そうか」
煉獄さんの口元に笑みが浮かんでいた。いつもの煉獄さんの優しい顔よりも、何か言いたげな顔にも見えた。
「涼しいな」
窓辺の風鈴が音をさせる。煉獄さんのハーフアップの髪が少し揺れた。
「あの風鈴、可愛いね」
涼やかな音色の風鈴を見上げると、杏寿郎もそちらに目をやった。
「ああ。母はこの江戸風鈴を好きだった」
透明なガラスに描かれた水色の桔梗の花が、控えめで可愛かった。
「…可愛いね」
ちりん、となるのを聞いていると、心が鎮まるような、ときめくような気持ちがした。
二人とも静かになって、次に鳴るのを待っていた。
…チリン…チリン……。
綺麗な音に、くすっと微笑んだ時、髪に温かい手が触れた。
思わず煉獄さんの方を見ると、胡座をかいた煉獄さんが腕を伸ばして髪に触れている。
ひなたがドキドキしながら見つめると、杏寿郎も黙ってひなたを見ていた。
「明日は、柱合会…」
言いかけたひなたは杏寿郎に引き寄せられていた。後頭部に回した手は、気がつけば杏寿郎の顔の前にひなたの顔を一瞬で寄せていた。
至近距離で見つめ合う格好だ。
ひなたは頬が熱い。
ゆっくりと杏寿郎の顔が近くなる。ひなたは目を開けておくことが出来なくて、咄嗟に瞳を閉じた。
杏寿郎の呼吸の音がして、物凄く近くに煉獄さんを感じていた。人の温もり、体温、煉獄さんの持つ色香みたいなものが感じられる。
「……」
煉獄さんの唇がひなたに重なっていた。
「ん…」
煉獄さんの手がひなたの身体を引き寄せて、薄い浴衣から手のひらの熱が伝わってくる。
唇を合わせたまま、ひなたは煉獄さんの胸の中にいた。
煉獄さんは力が抜けたひなたの唇を開けると、ひなたを味わうような口付けに変えた。
強引な口付けなのに甘くて、吸い込まれてしまいそうな口付け。
煉獄さんに抱きしめられている事も、キスしている事も、何も考えられなくなって、ひなたもキスを味わった。
夢中になるほどの甘いキスだった。