第8章 ※ 誰を愛していたとしても…。
寝る時間になって、千寿郎は自分の部屋に帰った。先程は目にした槇寿郎も、自室に戻ってしまったようだ。
あまり槇寿郎とは会わないのだが、二人が部屋に行ってしまうと、杏寿郎とひなたが残された。
茶の間で寝るまでの時間を過ごす事が多い。千寿郎が部屋を出ていくと、ひなたも後に続いて茶の間を出ようとした。
「私も寝ようかな。煉獄さん、お休みなさい」
風呂上がりの杏寿郎に挨拶をすると、少しだけ胸元を開け、外から入ってくる夜の風に涼み、外を眺めていた杏寿郎が振り返る。
「寝るか。おやすみ」
薄いブルーの模様の入った浴衣は、キリリとした煉獄さんを和風の美男子にしていた。いつもの隊服だと、時々外国の人っぽく見える時がある。
「…おやすみなさい」
部屋を出ようとしたけど、やっぱり言っておかないといけない。
ひなたは振り返る。
「煉獄さん」
やっぱり煉獄さんは外を眺めていた。ひなたの声にこちらを見る。
「どうした? 」
「この前は、ごめんなさい」
煉獄さんの座っているちゃぶ台の方に、一歩、歩み寄った。
「煉獄さんに何も言わずに、勝手に産屋敷家に帰って、ごめんなさい。次の日、迎えに来てくれたって、千寿郎君に聞いて…」
杏寿郎の前まで来ると、膝をついて座った。外からは虫の声と、涼しい夜風が爽やかな涼を運んでくれる。
煉獄さんは頷いた。
「君に厳しくしたのは、俺がいなくても、強くあってほしいからだ」
ひなたの方に身体を向けて話す。
「君を泣かせた言い訳に聞こえるか? 」
煉獄さんは少し目を伏せた。はっきりとした目元がとても綺麗で、見ているひなたは切なくなりそうだ。
…煉獄さんは、あの時、私が泣いてしまった事を、気にしているの…?…。
そんな表情だった。煉獄さん…。
「ひなたがいるのが、俺の中で当たり前になっていたんだ。いや、当たり前だと思いたかったのかもしれんな…」
ふと目を上げ、その目がひなたを捉える。
「君には、好きな人がいたな」
ひなたは、徐々に頬が赤くなっていくのを感じていた。杏寿郎に見つめられるたびに、手を伸ばせば、煉獄さんの浴衣に手が触れそうに近くにいる事に…。
「君がいなくて寂しかったぞ」
「私も」