第8章 ※ 誰を愛していたとしても…。
「ひなたさん!どうしたのですかっ」
「んん?…」
聞き覚えのある優しい声に薄っすらと目を開けてみると、煉獄家の裏庭に倒れていたようだ。
「帰って来たんだ!!わたし!! 」
急いで起き上がろうとして、転がった。時間移動は何回かして慣れた気になっていたけど、フラフラする。
「覚えていないのですか⁉︎…そして、何故、このような所で寝ているのですかっ」
転がったひなたを起こして、千寿郎はかなり驚いていた。
「いつお戻りに?兄上が迎えに来ませんでしたか? 」
「煉獄さんが…?私を? 」
「はい。兄上は今朝、ひなたさんのお迎えに上がると家を出ていきました。…あれ?行き違いになってしまったのかなぁ…だとしたら兄上は一人寂しく…」
ぶつぶつと呟いている千寿郎君を、思わず抱きしめていた。
「…っ、苦しいし、恥ずかしいですひなたさん! 」
「ありがとう千寿郎君!嬉しいの! 」
「え…。あっ、そうですよね! 」
千寿郎は慌てて頷いてみせた。恋の三角関係は、兄上の恋の矢はひなたさんの方にも向かっていたのかなぁ?
昨日は、大河内美也子さんと会っていたようだけれど、兄上は、大河内美也子さんとひなたさんのどちらが本命なの?
「ひなたさん、ところで毛織物は暑くはありませぬか? 」
千寿郎君は、ひなたがジャケットを着ているので不思議そうにしている。
向こうは冬なので厚着をして来たが、こちらは盛夏だった。
裏庭は風情のある庭園が造られていて、清水の流れる鹿おどしが水を落とす良い音を響かせる。
「ね、千寿郎君、煉獄さんはいつ帰ってくるのかな」
ごまかしながら訊いてみると、千寿郎は可愛い顔で答える。
「任務が無ければ、そろそろ帰って来ると思います。明日は柱合会議があるようです。だから今夜は家で過ごすのではないでしょうか」
では、待っていたら煉獄さんは帰って来るんだ。
「ひなたさん、兄上はひなたさんが帰省される事を知りませんでした。何も聞いてないって驚いて…。兄上との間に、何かあったのですか? 」
ひなたは首を振り笑った。
「ううん。私が悪いの。煉獄さんを好きな気持ちを、どうしたらいいのか自分でわからなくなっただけ。もう大丈夫だよ」