第8章 ※ 誰を愛していたとしても…。
「ここで良いのか? 」
産屋敷家の前で車を停めた。
「うん。ここでいいの。不死川さん、ありがとう! 」
心配そうな不死川に向かって微笑んでから、運転席の方に身体を向けると、不死川も腕を伸ばしてひなたを抱いた。
「気をつけてな。くれぐれも無理はするなよ」
「うん。不死川さんも、ご飯ちゃんと食べてね」
「…分かってる。お前は誰かに作ってもらえ」
不死川がキスして、唇が触れる。これで暫くはお別れだと思うと、寂しさから離れがたくなってしまった。
「…不死川さん、行くね。ありがとう」
「ああ。待ってるからァ」
最後にもう一度キスして、ひなたは車を降りた。不死川の車のライトで明るく照らされた家の門扉。重い扉を開けて入ると不死川に手を振る。
ひなたが門の中に消えてしまっても、不死川は暫くそこにいた。もしかしたら、ひなたが戻って来るかもしれないと思ったからだ。
でも、ひなたは来なかった。
「…ひなたらしいなァ」
そう一人呟いて車をバックさせる。一瞬だけ、ハンドルに顔を伏せたが、身を起こした。
…さっきまで腕の中にいたのに、時代を飛び越えて行くとは…。
「アイツは、やっぱり産屋敷先生の孫だなァ」
ひなたのような子を好きになったのは初めてだ。自分だけのものにしたいのに、できない。そんな思いを抱いていた。
不死川の胸のポケットに入れている携帯が鳴った。
「もしもし。…ああ。今、出てる。こんな時間にどうした?…今どこ?…分かった。迎えに行くから、そこ動くなよ」
電話を切り、また車を走らせる。家に帰るつもりだったが用事ができたため、麹町にある待ち合わせのコーヒーショップまで向かった。