第3章 必要とされないモデル
だから言いたくない。おじいちゃんにもきっと、凄く心配をかけてしまう。
おじいちゃんは高齢なのだ。凄くしっかりしてるけど、100歳を超えている。大正生まれのおじいちゃんは、毎日を穏やかに過ごしている。
おじいちゃんの妹達も、皆亡くなってしまった。産屋敷家の98代目の当主である産屋敷輝利哉は、今も産屋敷一族の心の拠り所である。
それは輝利哉の持つ人間性がそうさせるのだとひなたは思っているけれど、それだけではなく、輝利哉が僅か八歳という若さで産屋敷家の当主となり、ある大きな出来事の指揮を見事にやり遂げた人物であるからだろう。
今も産屋敷家に所蔵されている、産屋敷くいなの記した【産屋敷家備忘録】には、その当時の事が克明に書き残されているらしい。
らしい、というのは、その書物を見ることが出来るのは当主だけであり、産屋敷家に生まれても目にする事はないからである。
ひなたは輝利哉の孫ではあるけれど、詳しい事を知らされていなかった。それは輝利哉の意向だという。
もっとも、ひなたにとっても古い一族の書いた日記よりも、もっと関心のある事がいっぱいの毎日だったから、今まで気にした事がなかった。
大好きなおじいちゃんが生きている。それだけで良かったし、おじいちゃんが立派な人である事はひなたはよく分かっている。
「おじいちゃん、私ね」
契約、打ち切られたんだよ。今もね、建設会社の面接も駄目だったの。私って何の価値もない人間だったんだなって、痛いほど感じてる所だよ。
打ち明けるとしたら、何から話せば良いか。暫くの間、ひなたは話のきっかけに迷ってしまっていた。おじいちゃんは、そんなひなたが話し出すのを黙って待ってくれている。
いつもそうなのだ。うまく話せなくて、泣き出してしまっても、輝利哉は静かに待っている。