第3章 必要とされないモデル
家の門扉をくぐり、樫の木が植えられた玄関までのアプローチを歩いていると、背後からおじいちゃんの声がした。
「ひなたやお帰り」
穏やかな声に振り向くと、庭先におじいちゃんがいた。
「おじいちゃん!来てたの⁉︎ 」
おじいちゃんの元へと駆け寄った。ひなたはおじいちゃん子である。
「手入れする頃だからね。ひなたにも会いたかった」
いくつかの盆栽を前に、剪定鋏を持ったひなたの祖父である産屋敷輝利哉は微笑んだ。
祖父の顔に浮かんだ微笑は上品で、ひなたは輝利哉の笑顔が大好きだ。
「私もおじいちゃんに会いたかったの。おじいちゃんの家にも行ってなかったな」
おじいちゃんこと産屋敷輝利哉は、盆栽の松を愛おしそうに眺めた。小さいけれど、きちんとした枝ぶりの木だ。
着流しを着た産屋敷輝利哉は、盆栽を剪定しながら、いつものように穏やかな声音でひなたに語りかける。
「何かあったのかい、ひなた」
「えっ? 」
「おじいちゃんに話してごらん。いつもみたいに」
ひなたはおじいちゃんの近くの椅子に腰掛けた。
「何でもないよ」
輝利哉は黙々と盆栽に手を入れている。輝利哉が育てた盆栽は素晴らしく、見学したいという人が後をたたない。
ひなたは、おじいちゃんの優しさが盆栽たちに伝わっているからだろうと思う。おじいちゃんは目立つ事を好まないから、控えめにしているけれど、それでも産屋敷輝利哉の手掛けた盆栽は、愛好者の憧れだ。
いつもこうして庭の椅子に座って、おじいちゃんが盆栽のお世話をするのを見るのが好きだ。子供の頃から、こうして二人で色々なお話をしてきた。
学校の事や、中学生でモデルを始める時にも、こうして二人で話した。モデルのお仕事で悩む時も、おじいちゃんに相談したっけ。
でも、モデルの仕事をクビになった事は、おじいちゃんにも内緒にしようと思っていた。
仕事上の悩みを打ち明けるのと、契約を解消された事を告げるのとでは、雲泥の差があるのだ。