第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
翌朝、早朝に帰って来た杏寿郎は、ひなたの部屋の前に立っていた。
昨日の事もあり、自分はひなたを傷つけたのかと思うと、声をかけるのを躊躇う。
しかし、ひなたは隊士見習いの身。大切な時期だ。剣士になるまで育てたい。中途半端な指導はしないと決めている。
「ひなた」
襖の前で声をかけると、花器を手にちょうど廊下を歩いて来た千寿郎と会う。
「兄上、お帰りなさい。ひなたさんは先程、産屋敷家に行かれました」
「聞いていなかった。千寿郎は知っていたのか? !
「はい。昨夜聞きました。お土産と鬱金香をお持ちになると。幾日か滞在なさるそうです」
兄上はどんな反応をするのだろう。千寿郎は胸がドキドキした。
「そうか!分かった。久しぶりにご家族に会いたくなったのだな。積もる話もあるだろう」
もっと動揺するかと思ったけれど、兄の反応は普通だ。
…兄上の心には、大河内美也子さんしかいないのかな…。
千寿郎は心の中で呟く。兄上とひなたさんは、凄く相性が良さそうなのに。
二人が寄り添っている所など、想像したら楽しい。
「千寿郎、昼から少し出て来る。約束があるから」
「大河内さんですか」
間髪入れずに聞いてしまった。今まで兄の恋愛に口を出した事がないのに。千寿郎としては、ひなたを推している。
杏寿郎は僅かな笑いを浮かべた。
「千寿郎には隠し事ができないな!そうだ、今日は美耶子さんと会う」
「そうですか…」
少しガッカリしながら呟いた。美也子さんは嫌いではない。だけど、俺はひなたさんの方がもっと好きだと思う。
「ひなたがいないなら、一人で鍛錬するか! 」
「では、俺は朝餉の支度をします」
杏寿郎は一人で庭に出た。
ひとしきり剣術などをこなして、さらに技に磨きをかけていく作業を続ける。
順調に進めていたが、ふと、立ち止まる。
いつもなら、ここにひなたがいるのに…。
『いった〜い!煉獄さん早すぎる!もっとゆっくり打って!』
杏寿郎の竹刀の動きが見えないと、何度逆ギレされただろう。
『俺の動きが見えないのは、君に原因があるからだぞ?』
そう言って、笑ったな。
思い出して、一人で苦笑してから、暫くそのまま立っていた。