第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
…俺は、ひなたの気持ちを全て分かっていなかったのか…。
数日前から少し様子が違うとは思っていたが、今、はっきりとわかった。いつも仲が良かったから、ひなたの事を理解できていると思い込んでいた。
心の動きにも注視しているつもりだった。
ひなたの、こんな泣き顔は見た事がなかった。
「どうして…」
そう言ったものの、次の言葉が出てこない。言葉に詰まるなんて、杏寿郎らしからぬことだ。混乱している。
杏寿郎は膝を着いて、横たわったひなたの身体をゆっくりと起こそうとした。いつもなら、自分で起きずに杏寿郎に起こしてもらうのに、ひなたは自分で起きようとする。
「…大丈夫だから…」
土の付いた頬。流れた涙を拭うと、ひなたの顔は更に土で汚れた。
「…おい…」
杏寿郎がひなたの腕を掴んで、自分の方に向かせる、
「なぜ泣いてる。話してくれ」
そう言いながら、杏寿郎の中で異変が起きる。
ひなたの泣き顔から目が逸らせないのだ。
先日、鱗滝さんの庵で、二人だけで過ごした夜に感じた想い…。
自分はひなたの事を、継子以上に思っているのではと、一瞬思ったあの時の想いがまた湧き上がる。
だから絶句した。
「今日は、ここまでにしよう。おいで、顔を拭いてから家に入ろう」
ひなたの手を、そっと握り、井戸のある場所まで連れて行こうとした。
「顔を洗ってくるから。一人でできるから大丈夫」
ひなたは一人で歩いて行こうとする。
「待て」
杏寿郎はその手をもう一度握った。
「二日振りに帰って来たんだ。少し話そう」
杏寿郎の声は落ち着いていて、澄んだ声を聞くとひなたの中に杏寿郎を好きな想いが溢れてきた。
「…優しくなんてしないでいいから。明日はもっと頑張ります」
師範の顔を見ないで、ぺこり頭を下げると走って行こうとした。
即座に腕を掴まれる。
今度は杏寿郎と目が合った。
「好きな人がいるのに、私に優しくしないでよ…」
涙がどばっと溢れてきた。
もう一度、頭を下げて礼をした。いつも、鍛錬の後はお互いに礼をして終わるからだ。
赤い顔をして、ひなたは走って帰った。