第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
それから数日が経って、合宿前の日々の暮らしが戻った煉獄家では、杏寿郎が任務に出て家を空ける事も多い。
任務には、ひなたはまだ隊士ではないこと、十分な働きもできない事を考慮して杏寿郎が一人で行く。
だから、ひなたに稽古をつけるのは、任務から帰って来た後の早朝とか、杏寿郎の休みの日とか、あとは夕飯前の夕暮れ時に、庭に出てやる事が多い。
この日も、杏寿郎は遠い地方まで出向いたので二日振りに戻った。
帰って来て、暫くどこかに出掛けた杏寿郎が、ひなたの部屋の前に立つ。
「ひなた、いるか。鍛錬を始めよう」
部屋で縁側に座り、チューリップの鉢植えを見ていたひなたは顔を上げた。
「はい! 」
ぼんやりと指先で花びらを撫でていたので、急いで襖を開けに行った。
「鍛錬?着替えてくるね」
「ああ。庭に出て待ってる」
師範の背中が玄関の方に遠ざかって行くのを、寂しい思いで眺めてしまった。
煉獄さんに会うのは二日ぶり。怪我なく帰って来た師範に、お帰りなさいを言い忘れていた事に今、気づいた。
夏の夕暮れは長いから、師範と向かい合っての鍛錬は、すぐには終わりそうになかった。
「久しぶりだな。俺のいない間も、怠らずに鍛えたか? 」
杏寿郎の凛々しい、師範らしい顔で訊かれた。
「はい。毎日、早起きして頑張りました。千寿郎君にも相手してもらって、打ち合いを沢山しました」
「確かめてみるか! 」
杏寿郎の瞳がぎらりと輝いている。鍛錬の時、男性的になるとひなたが前から思っている瞳だ。
その顔が、大好きだったんだって、向かい合った時に痛感した。
「行くぞ!どこから打って来てもいいぞ!ひなた! 」
杏寿郎は構えもせずに、腕を組んで立っている。
ひなたは、師範の脇腹あたりなら少しは竹刀がかすめるかもしれないと計算した。真正面から行くふりをして突っ込む。
そして、素早く師範の空いている脇腹めがけ、竹刀を打ち込んだ。
「っつ!… 」力一杯に打ったのに…。
師範はもうそこにいなかった。
それは予想の範囲内だったから、もう一度構え、師範めがけて大きく飛び込んだ。
振り上げた竹刀は、師範の掌で一瞬にして弾き飛ばされた。
「うっ! 」