第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
「ただいま戻りました。萩さん、世話になりました。留守の間に何か困った事はなかったですか」
父親の事を心配していたのだろう。萩さんは、変わりなく健やかな杏寿郎の姿にまた会えて、心から嬉しく思った。
「槇寿郎さんは、普段と変わらずよ。お酒を買いに行く時と、散歩以外はあまり部屋から出ないの」
萩さんは大した事ない調子で言った。煉獄家を支えているのは、少なからず萩さんの明るさだ。
「さぁ、皆手を洗ってきて。お土産のよもぎのお餅をいただきましょう」
「はい! 」
お茶とお菓子を茶の間に運んだ。
萩さんは、お餅の蓋を開けると歓声をあげている。
「見送った時、お土産を買ってくるなんて言ってたけど、合宿でそれどころじゃなかったでしょうに。ありがとう、美味しいわ」
「良かった。おじさんの分も忘れずにな! 」
「あの人が喜ぶわ」
千寿郎も、美味しそうに食べては談笑している。
久しぶりに帰って来た煉獄家の茶の間、美しいしつらえで大好きな空間だ。
本当はほっとするはずの部屋なのなのに、ひなたは居心地の悪さを感じていた。
早く一人になりたくて、つい口数が少なくなってしまう。
もちろん楽しげに笑っているけど、無理してる。
「ひなたちゃん。もう食べないの? 」
萩さんに言われ、ほとんど食べてない事がバレないよう、明るく笑った。
「夜ご飯の後の楽しみにとっておこうかな。萩さんのご飯が食べたいから! 」
皆が笑って、ひなたはほっとした。
ご近所に配るお餅を風呂敷に包んで、千寿郎はお台所の入り口の方をチラ見した。
「ひなたさんはどこに行ったかな。一緒に行こうと思ったのになあ」
いつもなら、ひなたはご近所の散歩に喜んでついてくる。ご近所さんは皆優しくて、ひなたの事を可愛いと言ってくれる人ばかりだ。
「ひなたさん、さっきは元気なかった。やっばり、俺の思った通りだったのかな」
風呂敷を包み終わって、ひなたを探して部屋まで行ったけど、ひなたの姿はなかった。
「兄上と鍛錬かな…」
気になりつつも、早く行かないと、お土産を配る先が沢山あるため、千寿郎は一人で家を出た。