第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
「ひなたさん。家に入りましょう」
茫然と立って見ているひなたの様子が変だ。千寿郎は肌で察知してしまった。
「さっ、さあ!お家に入って、さっき買ったお餅を食べましょう! 」
ひなたの背中を押して家の方に誘導する。
…なんたが、ひなたさんが泣いてしまいそうだ…。
千寿郎は一人でおろおろしてしまった。
ひなたは、胸が痛くて、なんだか泣き出したい気持ちで一杯で、目の前をチョロチョロしている千寿郎君に気がつくのが遅れてしまった。
「ひなたさん!萩さんと、ちっ…ちっ父上に、帰ったと挨拶に行きましょう! 」
…あ〜ん!父上への挨拶は無理かも!!…
言った後で後悔したが、ひなたははっとしたように千寿郎を見た。
「う、うん!…ごめんね、ぼーっとしてたの」
「さっ、さあ!お茶を飲みましょうね! 」
日頃、大人の歌謡を聴いている千寿郎なので、男女間の恋のもつれ関連の歌の歌詞が頭をよぎる。
…ひなたさんは、兄上と大河内美也子さんを見た時から様子が変だ…。
…もしかして…。
…ひなたさんは、兄上に、惚れていたんだ…。
玄関の引き戸をガラガラと開けながら、千寿郎は密かに、真実を見つけた名探偵になれた気がしていた。
「お帰りなさい!元気に帰って来れたのね!杏寿郎さんは? 」
お台所に入って来た千寿郎とひなたを、満面の笑みで迎えた萩さんは、当然いるはずの杏寿郎の姿が見えないので尋ねた。
「…あっ兄上は…後からきます」
ひなたの前なので、歯切れの悪い返事をしてしまう千寿郎に、ますます訝しげな顔をしている萩さんは、おとなしいひなたの様子が気になった。
「ひなたちゃんは、修行が大変だったね」
優しい萩さんの言葉がお母さんみたいで、ひなたはモデルらしい綺麗な笑顔をつくり応えた。
「萩さん、毎日が鬼のしごきでした! 」
「あらあら!その例え!槇寿郎さんには聞かせられないわね」
笑う萩さんにお土産を渡して、中を開けて喜ぶ萩さんの声と、千寿郎とひなたの笑い声。賑やかな声のするお台所に杏寿郎が入ってきた。