第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
杏寿郎達を乗せた黒塗りの車は、駒沢村のお屋敷街に入ってきた。
愛着のある見慣れた風景である。ここから角を曲がると、竹林に近い奥の方に煉獄邸がある。
「そろそろ着くぞ。ひなた」
「…ん…」
頭のすぐ近くで響いた艶のある声…。その声はひなたの胸を温かくも締め付けもする。
きゅんとしつつ、眠りから覚めた。
こんな起き方は…大好きだと思った。
煉獄さんと近い事が嬉しい。ひなたは、この合宿の間、いつも以上に煉獄さんと一緒にいて、前よりもっと煉獄さんの事を知れた気がする。
煉獄さんと一緒にいられて、嬉しい!素直にそう思えた。ほわほわしている。
この時代に来て良かった…。
大きな怪我も無く、合宿を終えられたし、行く前より格段に鬼殺隊の事も理解できた気がした。頑張る千寿郎君と一緒で嬉しかったし、何より鱗滝さんと煉獄さんという、柱の二人と過ごした経験は隊士見習いには大きな事だ。
とにかく、ひなたの心は今、とっても幸せな気持ちで満たされている。
師範の胸から身体を離し、今までくっついていた温もりの心地良さを離れ難く感じている。
「眠っちゃってた。…千寿郎く〜ん、朝だよ」
朝ではないが、千寿郎に可愛いく囁いているひなたの、そんな姿も良く見たなと、微笑を浮かべている杏寿郎だったが、ふと気配に気づくと顔を上げた。
通りの向こうから、杏寿郎達の車を追いかけるように、女性がこちらに向かってくるのが見えた。
遠目からでも、視力の良い杏寿郎には誰だかわかった。
「すまないが、そこで停めてください。千寿郎はひなたを連れて行ってくれ」
「はい、煉獄さん! 」
運転手はすぐに車を寄せて停車した。開いたドアから杏寿郎が急いで降りて行く。
「師範はどうしたの? 」
不思議そうに尋ねるひなたに、千寿郎は窓の外を見て理解した。
「大河内美也子さんが、来たんです」
「ん? 」
ひなたにとっては初めて聞く名前である。
「誰? 」
座席の真ん中に座っていたひなたからは、窓の外が見えずらかった。杏寿郎の空いた方の窓に近づき、外を眺めた。