第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
「うっこんこう? 」
「はい」
チューリップの昔の呼び方だった。三人でどれが良いか選んでいると
「今の時期は珍しいでしょう。花自体、まだそんなに知られていない品種ですよ。お土産にいかがですか」
お店の女性が話しかけてきた。
「とても可愛いらしいな。いただこう」
杏寿郎が笑顔で返すと、女性は、杏寿郎やひなたのような若い客が喜びそうだと、更に話をした。
「可愛いでしょう。この花の花言葉をご存知ですか。色によって違うんですけど、桃色のは愛の芽生えって言うんです」
「そうか。む、ひなた、どうしたんだ? 」
ピンク色のお花を見つめたまま、固まっているようなひなたに気がついて、その肩に手を置いた。
「ひなたの分も、買ってあげよう!いくつ欲しい? 」
ひなたはドキッとした。胸が痛いような甘いような、すごく苦しくなる感じがした。
「あっ、あまねさんの、お家にも持って行こうと思うの…」
「そうか。お館様もお喜びになるだろう」
杏寿郎はお店にあった鬱金香の鉢をいくつも買っていた。
沢山のお土産を買い、また車に乗り込むと、今度は真っ直ぐに家へと向かった。後部座席に並んで座っている三人は、車の揺れで身体が触れる。
もうすぐ家に帰り着くという安心感からか、揺れに任せてひなたはうとうととして瞼が重たくなってきた。
「…ん? 」
窓の外を眺めながら、今回の合宿の事を考えていた杏寿郎は、左肩の辺りに柔らかな感触を感じた。
寝落ちしてしまったひなたが、自分にもたれてすやすやと眠っている。
「疲れたのだな。良く頑張った」
微笑みを浮かべて、眠りやすいように胸を貸す。ひなたの頭は杏寿郎の胸元に綺麗に収まる。
「二人共、眠ってしまいましたね」
運転手の男性が杏寿郎に小さな声で話しかけた。
千寿郎も背もたれに張り付くようにして眠っている。
「ああ。着くまでは眠らせてやりたいんだ」
二人を見守るように優しく呟いて、杏寿郎も目を閉じた。眠ってはいない。
…父は、母への想いをあの花に託したのだろうか…。
父が鬱金香の花言葉を知っていたかは定かではないが、あの花の言葉のように誠実な愛情を捧げていたのだ。
そう思うと、切なくなっていた。