第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
目の前に、太い丸太がブンッ!と飛び出してきた。
「きゃーあっ!! 」
「わぁぁ〜っ!! 」
ひなたと千寿郎は、お互いを引き寄せるように手を握り合いながら走る。千寿郎はひなたが心配で手を離すことができない。
そんな様子を監督している杏寿郎からは厳しい声が飛んでくる。
「千寿郎、ひなたの手を離せ。共倒れになる! 」
「でも兄上!これはあまりに怖すぎますっ。ひなたさんに当たりでもしたらっ」
「千寿郎が庇っても、ひなたの為にはならん! 」
杏寿郎の大きな声の迫力に、千寿郎はだいぶ怯む。
…兄上の言う通りだ。このままでは二人で丸太に飛ばされる…。
「ひなたさん、手を離しますね」
「待って、それ怖いから待って! 」
「兄上が怖いんです…」ごめんなさいひなたさん。
誰かの手を掴んでないと、耐えられないひなただったのに、千寿郎の手は、するりと抜けていった。
「千寿郎君置いてかないで〜っ」
恐怖の余り、千寿郎の姿を追いかけてしまうひなた。注意力が無くなり隙ができる。
先の尖った槍が、ひなためがけて空気を切り裂き襲いかかってきた!
ひなたはもう避ける事もかわす事もできなかった。
「ああっ!ひなたさんっ! 」
千寿郎の叫びで身体がこわばる。ぎゅっと目を閉じた時!
杏寿郎の刀身が槍を全てはね飛ばした。ひなたの目の前に、赤い模様がはっきりと見えた。ひなたを危険から守ってくれた刀の艶…一瞬だったけど、その美しさ、華麗な刀の捌きに目が奪われる。
「ぼーっとするな。気を抜くと死ぬぞ」
「そうですねっ! 」
恐怖で返事も心ここにあらずなひなた。杏寿郎はひなたの肩を叩いて気を元に戻す。
ひなたははっとした。集中を忘れていた。
見渡すと、狭霧山の深い森の中、麓の鱗滝の家に戻る訓練の途中であった事を思い出す。合宿も終盤になり、いよいよメインである障害物を避けながら鱗滝の家まで辿り着けるかのテストである。
杏寿郎の判断でひなた一人では無理となり、皆でやる事となった。