第7章 ※ 鬱金香のピンクは愛の芽生え
杏寿郎は目を開けた。ひなたが庵を出て行くまで静かにしていた。
実は起きていたので、ひなたが呟いた「うわ…」も知っていたのだが、眠った振りをしていた。
ひなたが気まずいようなので、起きて声をかける事はしなかった。
…やはり、一種の寝癖だったのだな…。
もしかしたら、意識があったのかと思ったが、眠りながらした事だ。それなら、自分が何かを言う必要もないな。
杏寿郎は起きると隊服に袖を通した。特殊な生地で出来ている隊服は、濡れるとなかなか乾かないが、とても頑丈でしっかりしている。
幸い、囲炉裏の炎で乾いていた。
羽織を纏い、外に出ると杏寿郎の鎹鴉の要が待っている。
「要、おはよう!鱗滝さんに言付けてくれないか」
要は杏寿郎のメッセージを受け取ると、黒い羽根を羽ばたかせ飛んで行った。
「ひなたは、鍛錬に行ったか」
俺に会うのが気まずいのだろうか。いつもは進んで鍛錬などしないのに、姿が見えない。まだ帰る気配もない。
「腹が減っているかもしれんな…」
昨日からお茶以外、口にしていない。きっと腹が減っているだろうと思った。
庵には竈がある。ご飯が炊けるという事だ。
鱗滝さんは、狭霧山で迷う人の為に、米を常備しておいてくれているかもしれない。
戸棚を見ると、中には小さな米櫃があった。
「よし!ひなた、待っていろ」
可愛い継子に、朝ご飯というものを作ってみる事にした。正直、今まで米を炊いた事はない。だが、萩さんがするのを見た事はある。
米がご飯になる過程なら理解している。
グワシッ!と、庵の台所に米を研ぐ音を響かせながら、杏寿郎は必要以上の力でお米を研ぎ、記憶にあった適量の水を適当に注いで竈に火を入れた。
煉獄家はガス釜なので、炎を吹いているとなんだか昔話のお爺さんのような気分だった。やってやれない事はない、と竈の蓋を開けて艶々のご飯を見た時は嬉しさが込み上げた。
「炊けたぞ!良い出来だ!! 」
しゃもじで掬うとなかなかの出来である。鱗滝さんの家で世話になっている間、竈の飯を食べたおかげだなと、竈のある暮らしに触れていた事が良かったと満足しながら塩を探す。
「塩は…どこだ?…おお!!これだな」
杏寿郎、初めての塩むすびが出来上がった。