第3章 必要とされないモデル
「ただいま」
「あーっ、お帰りなさい!ひなたちゃん。今日の撮影も遅くまでだったのね! 」
家に帰ると、ひなたの母が玄関先に飛んできた。エプロンを着けたお母さんは、ひなたが帰るといつも出迎えてくれる。
「お母さん、ただいま!撮影の後にお祝いしてもらったの」
「毎年そうね。社長さんにお礼しないと」
いつも良くしてくれる社長さんに、安心してひなたを預けている母は、無邪気に喜んでいる。
その顔を見た時、ひなたはお母さんに心配かけたくないと思った。
真っ直ぐに家に帰らず、寄り道して時間を潰して来て良かった。人に会いたくなかったので、お世話になっている隠れ家のようなサロンに行って何時間か過ごさせてもらった。お店の女性は何も聞かずに、ひなたをただ座らせてくれた。
一人でリラクゼーションの仕事をしている女性は優しい人だった。
「お礼に社長の好きなシャンパンを買っていくから。大丈夫だよ」
契約を打ち切られた事は、お母さんにはまだ言えない。ひなたは何事も無く、楽しい1日を過ごしたように振る舞った。
「お母さん、シャンパンの事よく分からないわ。ひなたちゃん、きちんとお礼してね」
「うん」
お母さんに花束を渡して、手を洗いに洗面所に行く。
手を洗い、ついでにメイクも落とした。勢いよく流す水でジャブジャブと顔を洗う。家に帰って来てから、お母さんを見てホッとして泣きたくなった分の涙も、洗い流した。
鏡に映るのは、誕生日とは思えない程に悲しみにくれた自分の顔。
家族が心配する。だから、言えない。
ひなたは家族の前ではモデルのお仕事をしている振りをしようと心に誓った。
モデルとして魅力が無くなったから、クビになったと言ってしまえば、お母さんは特に悲しむだろう。
母はいつも応援してくれていたから。
「明日から、職を探すしかないな」
ゴムで長い髪を結ぶ。産屋敷家に伝わる、独特の、輝きのある白系の髪。艶やかで量があり、絹糸のように光っている。
この髪に憧れてくれる女の子達が沢山いたな、と思う。
とりあえず一つに結び、キッチンにいるお母さんの元に行くために、自分に気合いを入れた。